宇宙を詠む(5/5)
一首目は誰しもが抱く感懐であろう。珍しくない。永井陽子と栗木京子の宇宙は、不思議さ・謎を感じさせる言葉として使われている。それに比して佐藤通雅の歌は理解しがたい。幻想してみせたようだ。
わが佇てるこの一瞬も無に等し宇宙果てなき闇と広ごる
中野たみ子
日光と月光菩薩 夢に会うその寂(しず)かさは宇宙のごとし
三枝浩樹
洋服の裏側はどんな宇宙かと脱ぎ捨てられた背広に触れる
永井陽子
草むらにハイヒール脱ぎ捨てられて雨水(うすい)の碧(あを)き
宇宙たまれり 栗木京子
終電に眠るに夢は波頭(なみがしら)ひとつ飛びして宇宙に至る
外塚 喬
ファックスを出でくるは宇宙の舌にしてありありと人間の輩蔑する
佐藤通雅
くれなゐの花散る子宮とうたひしがそこなる宇宙は朱の夏の闇
新井貞子
冷えびえとしたる宇宙に死ぬよりは月の兎を思いたまえな
岡部桂一郎
宇宙遊泳してきしならむ大き欠伸しをへてもとのみどり児の顔
中島やよひ
[注]右上の画像は、NHK-BS「宇宙遺産100」の映像から借用。