天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

俳句―取合せ論(3/5)

蕪村像(webから)

 取合せ(配合)の手法に対して「一物仕立て」と呼ばれる手法がある。他の事物と取り合わせずに、対象となる季語だけに意識を集中させ、その状態や動作を詠む方法である。これを芭蕉は「発句は只金を打のべたる様に作すべし」と表現した。
 以下に「一物仕立て」の例句をあげる。


     びいと啼く尻声悲し夜の鹿         芭蕉
     いざさらば雪見にころぶ所まで       芭蕉
     春の海終日のたりのたり哉         蕪村
     春雨やゆるい下駄貸す奈良の宿       蕪村
     大蛍ゆらりゆらりと通りけり        一茶
     青柳や二すじ三筋老木より      佐久間長水
     眼の限り臥しゆく風の薄かな      吉分大魯
     鶏頭の十四五本もありぬべし      正岡子規
     雪見酒なんのかんのと幸せよ       星野椿
     冬菊のまとうはおのがひかりのみ   水原秋桜子
     神田川祭りの中をながれけり    久保田万太郎
     麗しき春の七曜またはじまる      山口誓子


小澤 實は分り易く次のように要約している。
「季語を詠む句、季語を描写する句が一物俳句、季語と季語以外を取り合わせるのが取り合わせ。」