天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

山下清さん(1/8)

平凡社から刊行

[まえがき]これから8回にわたるこのシリーズの短歌部分は、「短歌人」誌上に、「山下清さんを訪ふ」と題して平成27年7月号から平成28年11月号にかけて掲載されたものです。


 山下清さんとは何の面識もない。テレビで連載の映画『裸の対象放浪記』を見たり本を読んだにすぎない。ただ、箱根の森美術館であったか、有名な貼り絵作品の実物をいくつか見た時に、山下清さんの稀有な才能に仰天した。以来、彼の歩んだ人生行路を歌に詠んだらどうなるか、興味をそそられた次第。


  悪人も居れど善き人多かりき山下清をうけ入れし国
  おかみさんと子供ふたりの家に住み飯たき風呂たき庭掃除する
  子供らにからかはれても我慢してがまんするほどまたからかはれ
  汽車がくる時間に合はせ忙しく弁当つくる 汽車ときやうさう
  まぐはひによりて子供のできること嘘だとおもふ清は二十歳 
  こつそりと弁当屋をでて元日の朝はやくから逃げて行くなり
  リヤカーに乗せてもらつた 引く人は唖でつんぼで手まねで話す
  魚屋の仕事はつらい夏くさく冬はつめたい魚の血だらけ


[注]このシリーズでとり上げた画像は、右上の『山下清の放浪地図』(太陽の地図帖 平凡社)から借用しました。