コミック短歌(11/12)
■口語がよく似合うペーソス感の溢れた歌。
ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に
落ちる涙は 『シンジケート』
なきながら跳んだ海豚はまっ青な空に頭突きをくらわすつもり
お遊戯がおぼえられない君のため瞬くだけでいい星の役
『ドライドライアイス』
お遊戯がおぼえられない僕のため嘶くだけでいい馬の役
のぞきこむだけで誰もが引き返すまみの心のみずうみのこと
『手紙魔まみ・夏の引越し』
おばあちゃんのバイバイは変よ、可愛いの、「おいでおいで」
のようなバイバイ
(あなたはまみにどんな酷いことしてもいい)睫毛と息と空が凍って
もう、いいの。まみはねむって、きりかぶの、きりかぶたち
のゆめをみるから
■自然詠。日常の身辺を詠ったものが中心である。
春一番うわさによると灯台であし毛の仔馬がうまれたらしい
『シンジケート』
水銀灯ひとつひとつに一羽づつ鳥が眠っている夜明け前
『ドライドライアイス』
あ かぶと虫まっぷたつ と思ったら飛びたっただけ 夏の真ん中
靴の紐結ぶおまえの両肩を入道雲がつかんでいたよ
ドアの前で眼があったときこの部屋に入りたそうにしてたゴキブリ
『手紙魔まみ・夏の引越し』
ひかひかの蜘蛛のめんめの表面が艶消し(マット)になるよ、死んだ瞬間
■社会詠。口語短歌でも十分に表現できる。むしろ文語短歌より生々しさが出せる。
子供よりシンジケートをつくろうよ「壁に向かって手をあげなさい」
『シンジケート』
みずあびの鳥をみている洗脳につぐ洗脳の果てのある朝
まるで薬の効能書きだ大統領候補のためのキャッチコピーは
『ドライドライアイス』
尻にあるネジさえ巻けばシンバルを失くした猿も掌を打ち鳴らす
夜明け前 誰も守らぬ信号が海の手前で瞬いている
『手紙魔まみ・夏の引越し』
庖丁を抱いてしずかにふるえつつ国勢調査に居留守を使う