天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

Dr.Ryuの場合(7/8)

短歌新聞社刊

恵里子との生活
岡井隆が現在も生活を共にしている女性、新見(にいのみ)恵里子(えりこ)さんと最初に出会ったのは、平成元年十月末からNHK学園の海外研修でオーストリアに旅行した時であった。彼女はNHK学園絵画センターの講師として参加していた。岡井より三十二歳も若い。
  うつくしき女と会ひし中欧のカフェテラスより現在(いま)が
  生まれつ                 『宮殿』
  愛撫してさびしき今宵おのづから皮膚の綻(ほころ)びとして
  唇(くち)あるを          『夢と同じもの』
唇を皮膚の綻びとは、なんともエロチック。
平成八年二月に、三鷹の隠れ家から武蔵野市西久保のマンションへ移ってから、同棲が始まった。平成十年になって、家裁の調停によりC女との離婚が成立したので、恵里子と結婚した。歌集『臓器』以降は、恵里子関係の歌が数多く詠まれている。精神的に極めて安定している。
  朝はれて眼下の欅もみづまで我はねむらむ妻の手まきて
                       『臓器』
  杢太郎の植物図絵を中にして妻と語りぬ夕まぐれまで
                    『ネフスキイ』
  妻と並び芸術院の中庭に写真をとられてゐたりけるかも 
                   『X-述懐スル私』
ところで、岡井隆の父母弟妹に関する歌も数多く、中でもそれぞれの人への挽歌に惹かれるのだが、ここでは省略する。