天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

山河生動 (10/13)

『童眸』角川書店

  雪山を灼く月光に馬睡る           『童眸』
雪山を灼く・月光に・馬睡る という七五五の構造だが、意味上は、雪山を灼く月光に・
馬睡る である。途中に軽い切れがある。
  夏すでに海恍惚として不安          『童眸』
初句で切れるのか、二句目できれるのか?「すでに」はどこにかかるのか?「すでに夏」
とはなっていない点に注意。構文上では、「恍惚として」にかかる。恍惚として不安な状態
にある直接の主語は、海である。従って切れは、「夏」の次にあることになる。
/夏/すでに海恍惚として不安/
  冬の海てらりとあそぶ死も逃げて       『童眸』
初句切れなのか、二句切れなのか?「あそぶ」の主語は何か、と考えると海しかない。
よって切れは二句の後にある。
/冬の海てらりとあそぶ/死も逃げて/
自注によると、龍太は夜の海が嫌いである。たとえ月光の下にあっても、死が潜んでいる
と感じるらしい。「てらりと」は、太陽が出て海がてらてら光っている状態で、死の影を感
じない時なのだ。
  桃開く憶ひ出は温めて後           『童眸』
「桃開く憶ひ出」なのか? でも、それでは、「温めて後」の次にくるものが分からない。
よって初句の後に切れがあるのだ。
/桃開く/憶ひ出は温めて後/
では、「温めて後」に何が省略されているのか? そうではなく、「憶ひ出は温めて後、桃
開く」を倒置したのである。