甲斐の谺(9/13)
(6)擬音・擬態語
擬音語は、現実の世界の物音や声を我々の発音で写し取った言葉。擬態語は、現実の世界の状態を我々の発音でいかにもそれらしく写し取った言葉。これらも詠む対象が生動する技法で、二人が共に多用した。共通する言葉もいくつかある。
蛇笏の例
いきいきと細目かがやく雛(ひひな)かな 『山廬集』
ひたひたと寒九の水や厨甕(くりやがめ) 『山廬集』
をりとりてはらりとおもきすすきかな 『山廬集』
大乳房たぷたぷ垂れて蚕飼(こがひ)かな 『霊芝』
雁ゆきてべつとりあをき春の嶺 『家郷の霧』
龍太の例
いきいきと三月生る雲の奥 『百戸の谿』
蛍火や箸さらさらと女の刻 『百戸の谿』
梅雨の月べつとりとある村の情 『百戸の谿』
冬の海てらりとあそぶ死も逃げて 『童眸』
火事遠し白紙に音のこんもりと 『麓の人』
一月の瀧いんいんと白馬飼ふ 『麓の人』
擬音語、擬態語は日本語に豊富にあり、日本語を特色づける言葉なのだが、普通の国語辞典には載っていないことが多い。慣例に則って使用すれば常套句になり、詩としてつまらない。使用する場面を工夫することになる。
(山口仲美編『暮らしのことば 擬音・擬態語辞典』講談社 参照)
[注]このシリーズの写真は、社団法人 山廬文化振興会
https://www.sanrobunka.com/
のもの(飯田秀實氏撮影)を借用しトリミングしたところもある。なお飯田秀實氏
は龍太の長男。