龍太とつばめ
飯田龍太の俳句の特徴を理解するために、素材をつばめに絞って全句集から洗い出し、鑑賞してみた。全5008句のうち、つばめの句は59個あった。要約すると次のようになる。
★作者の心情を映した句が多い。情感豊か。
★季重りを気にしていない。8句ばかりある。
★五七五の定型をくづす場合(七五五や句割れ
などの変調)もある。
★燕の別称として、「つばくろ」が8句と多く、
初句に使った句が5例、
中七に使った句が3例ある。「つばくらめ」は
座五に使った一句のみ。
★最も多いのは『百戸の谿』(29〜33歳)に9句、
つぎの『童眸』(34〜38歳)に8句 と若い頃に
盛んに燕を詠んでいる。
比較するために父・飯田蛇笏の場合を調べてみた。全7368句のうち、つばめの句は44個ある。特徴を要約すると次にようになる。
★客観的に大景を描くことが多い。
★燕と雲との関り、例えば、雲に隠れる、雲間を飛ぶ
といった描写。
★季重りを気にしていない。9句ばかりある。
★龍太に比べて、一句の中に材料が多い場合や、詰屈な表現になる
場合がある。
★燕の別称として、「つばくらめ」が4句と多く座五に使っている。
「つばくろ」は無い。
★最も多いのは、三番目の『山響集』(51〜55歳)に12句、
次に『家郷の霧』(67〜70歳)に10句 となっている。
周知のように、蛇笏と龍太は親子であるが、俳句の面では、師弟の関係にあった。作品の上でどこか似ているところがあるはずと、つばめの句について見比べた。次の例が、見つかった。
秋燕に満目懈怠なかりけり
龍太『百戸の谿』 (昭24〜昭28)
おしなべて懈怠の山河燕来る
蛇笏『椿花集』 (昭31〜昭37)
括弧内が制作年なので、龍太の方が十年ほど先行している。満目〜おしなべて、懈怠〜懈怠、秋燕〜燕来る といった措辞の上での類似がある。ただ、季節が秋と初夏とで違っている。また、龍太の方が情緒的・抽象的だが、蛇笏の方はより写実的・具体的な詠み方といえる。
蛇笏が龍太の作品から学んだところもあったのであろう。