天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

富士のうた(5/5)

赤富士

  きさらぎの浅葱(あさぎ)の空に白雪を天垂(あまた)
  らしたり富士の高嶺は          吉野秀雄


  富士が嶺は奇(くし)びの山か低山(ひきやま)の暮れ入る
  時を赤富士と燃ゆ            吉野秀雄


  軒端よりふりさけみれば富士のねはあまり俄にたてり
  けるかな                安藤野雁


  白光を放ちて空に立てりけりたけく寂しく大き雪富士
                      葛原 繁
  高山の富士おもむろに空中に影のばしゆく怪をみてをり
                      葛原妙子
  めずらしく晴れたる冬の朝なり手広の富士においとま申す
                      山崎方代
  武蔵野に住みて真白き富士見しと誰を励ましわが生くるべき
                      島田修二
  この部屋から富士山見えおり干してあるストッキングを
  透かし見てみる             浜田康敬


安藤野雁(ぬかり)は、幕末の国学者歌人。『野雁集』『万葉集新考』等の著書がある。この歌は、ある年の春から秋、駿河国庵原郡岩淵の宿「ちご屋」に滞留していた間、事に触れて詠んだ三十八首の中のもの。
並べてあげたが葛原 繁と葛原妙子は夫婦ではない。妙子は影富士を詠んでいる。多分飛行機から眺めたのだろう。珍しい光景。