天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

原爆の記憶(9/9)

夾竹桃

  原爆忌昏れて空地に干されゐし洋傘(かうもり)が風にころがりまはる
                     塚本邦雄
  被爆二世の手帳もつ嫁が二人目を妊りて暑き夏逝かんとす
                     東野典子
  被爆時を満〇歳としるしたる手帳わが持つ持ちてゆくべし
                    管野多美子
  炎天に出でゆく父のポケットの被爆者手帳見たることなし
                     馬場昭徳
  原爆忌おだやかに過ぎ列島に鮮血のごと湧く百日紅(さるすべり)
                    富小路禎子
  ほほづきの実は赤々と風に揺れ夏陽まばゆし原爆忌けふ
                     近藤総子
  夾竹桃の花が真っ赤に燃えていてひとしお暑し今日原爆忌
                    上川原紀人
  原爆忌ふたつ持つ国、椒(はじかみ)の口ひびくがに蝉鳴きしきる
                    杜澤光一郎


塚本邦雄は俳句も多く作ったが、中に「原爆忌あまつさへ豚かがやきて」という原爆忌の句がある。短歌ではコウモリを、俳句では豚を取り合わせた。字面の情景だけを説明しては鑑賞にならない。読者各自の思いを入れるか、塚本の当時の背景を調べて想像をめぐらせるか、難解である。
原爆が投下された頃を経験した人たちにとっては、百日紅、ほおづきの実、夾竹桃の花などは、強烈な思い出になっている。何年たっても忘れられない。