天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

知の詩情(8/21)

 次に、塚本から継承した技について見ていこう。
第一には、様々の分野の固有名詞。芸術分野(音楽、文学、絵画など)で多いことが共通。塚本においては、聖書、フランス芸術、有名人の忌日にこだわる点に特徴がある。フランス語の多用も目立つ。小池においては、塚本より科学、政治・軍事などの分野で多彩になる。
 人名について出現の割合を調べてみると、斎藤茂吉の場合、全十七歌集(10420首)の平均頻度は、2.9%、最も頻度の高い歌集は『遠遊』の10.8%。塚本邦雄の場合、二十四の序数歌集(8957首)の平均頻度は、10.2%、最も頻度の高い歌集は『詩魂玲瓏』の17.8%。小池光の場合、現時点での全七歌集(3091首)の平均頻度は、9.3%、最も頻度の高い歌集は『滴滴集』の15.5%。茂吉に比べて、塚本と小池の頻度が格別高いことが明らかである。知の詩情派・書斎派歌人の特徴をよく示している。
 地図・地名については、塚本と小池がともに強い関心を持った。共通の場所に関して、例をあげよう。塚本が『新歌枕東西百景』において詠んだ埼玉県の地名に関する歌は次の二首。
  ちちとははわれに二人の神います透きとほるかに尾花夕映(をばなゆふばえ)   
  あかねさす日は高けれど池水に影引き渡る夢の女よ

前者は、埼玉県秩父郡両神村薄について、両神、薄を織りこみ、後者は、埼玉県入間郡日高町女影について、日高、女影を織りこむ。
 小池は塚本に呼応して『滴滴集』で「塚本さんと地名を遊ぶ 埼玉篇」八首を詠んだ。次の両神村薄が塚本と共通している。その詠い方は、まさに塚本調である。
  秩父両神村(りやうがみむら)大字薄(すすき) すれちがひざまの恋のかまいたち

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塚本邦雄『新歌枕東西百景』