水のうた(9/17)
草小田のうちゆがみたる畦を来て堤のつづき水の輝く
片山貞美
*わかるようでわからない情景。
水打たれたちなほる草 草に花 花に露おくことのたのしさ
藤井常世
*「花に露おく」とは、打った水が流れた後に花に残っている水滴だろう。
その情景がたのしい、とは分かる気がする。
陽のあたる山翳る山いくひだを穿ちてみづは回廊をなす
岸上 展
*山々の内部の水流を想像していて面白い。
原木の灰汁(あく)の溶けたる水の面に雲のきれゆく大空のいろ
青木佐喜子
*「原木の灰汁(あく)の溶けたる水の面」は濁っているのではないか。そこに雲や
大空は映るものだろうか、という疑問が起きる。
水明りたどりてゆかばいつの夜かわがたましひの癒ゆる江あらむ
光栄尭夫
*観念的で、情景も抽象的。
みなかみの激(たぎ)ちの音のはろばろしこの渓谷の村をまた過ぐ
成瀬 有
*旅人の姿が彷彿とする。
だぶだぶと岸をゆるがす水の辺にわが影しずむ瞬時をみている
木尾悦子
*水面に映ったわが影が、一瞬「しずむ」と見えたとは、不安な心情にあった
ことを思わせる。ただ客観的なので深刻さは感じない。