天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

水のうた(11/17)

  地の低きところに水は溜まりいて夕陽の沈む浜名湖を過ぐ
                       黒住嘉輝
*上句で浜名湖の状態を述べたのだが、浜名湖に限らない。しかしあらためて
 言われると説得力を感じるから不思議。


  まっすぐに落ちる水あり眼裏が河馬の欠伸のように明るい
                       今井恵子
*まっすぐに落ちる水を見ていた時の印象を、下句のように表現したのだろう。


  テンペラに描きこまれたる水はわが一生(ひとよ)見ざらむ洗礼の水
                       大口玲子
テンペラとは、顔料を卵・膠(にかわ)・樹脂などで練った不透明な絵の具。また、
 それで描いた絵画。15世紀に油絵の具が発明されるまで、西洋絵画の
 代表的手法であった(デジタル大辞泉による)。 洗礼の水を見ることは、
 一生のうちでもないだろう、とは頷ける。


  秋水とひびきあひつつ白月はひかりの髄となりてそそげる
                       春日井建
  秋の水きよらに満ちて本流へ入りゆくきはを白く荒れゐつ
                       小中英之
  洪水に溶け出だしたるみずぐきをきのう異土へと運べる潮
                       山田消児
*みずぐきとは、筆、筆跡、手紙などを意味する。また異土とは、故郷・故国と
 異なる土地。異国、外国。 洪水に流された手紙の行方を思いやっているようだ。


  寒の水ひと息に飲み少年の夜更けをくぐる玉すだれ鳴る
                      加島あき子
*寒の水ひと息に飲んだ時の感想を、下句のように表現したのだろう。

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河馬の欠伸