感情を詠むー「泣く」(1/5)
「哭(ね)のみ泣く・音(ね)をのみぞ泣く」は号泣と同じで、声を立てて泣くこと。
あかねさす昼は物思(も)ひぬばたまの夜はすがらに哭(ね)のみし泣かゆ
万葉集・中臣宅守
*枕詞「あかねさす」「ぬばたまの」を用いて、昼と夜を対比させている。
要するに、昼も夜もあなたのことを思い恋焦がれている、という歌。
たちかへり泣けども吾はしるし無(な)み思ひわぶれて寝(ぬ)る夜しそ多き
万葉集・中臣宅守
*「繰り返し泣いているけど私には貴方を見ることの出来る実感がなくて、
思い悲しんで寝る夜が多いことです。」
世間(よのなか)の遊びの道にすずしきは酔泣(ゑいなき)するにあるべくあるらし
万葉集・大伴旅人
*「この世の遊興で最も清々するのは酔い泣きすることであるらしい。」
慰むる心はなしに雲隠り鳴き行く鳥の音(ね)のみし泣かゆ
万葉集・山上憶良
*「心を慰める術はなく、雲の間に鳴きながら飛んで行く鳥のように、ただ声
上げて泣くばかりだ。」これは、作者が老いて病を重ねる自身の身を嘆いて
詠んだもの。
いま来むと言ひて別れし朝(あした)より思ひくらしの音(ね)をのみぞ泣く
古今集・遍昭
*「 すぐにまた来るよ、とあなたが言って別れた朝から、私は一日中あなたの
ことを思って、ただ泣くばかりです。」
逢ふことも今はなきねの夢ならでいつかは君をまたは見るべき
新古今集・上東門院
*「なき」に、無きと泣きが掛けられている。
見る人の袖をぞしぼる秋の夜は月にいかなる影かそふらむ
新古今集・藤原範永
*下句で、「月にどんな面影がだぶってくるからでしょうか。」と詠っているが、
もちろん「貴女の面影が重なるのです。」と言いたいのだ。