感情を詠むー「悔しさ」(2/4)
つひにかくそむきはてける世の中をとく捨てざりし事ぞくやしき
平家物語・平康頼
*山口県の峨眉山普賢寺の境内にこの平康頼の歌碑が立っている。
ただならじとばかりたたく水鶏(くひな)ゆゑあけてはいかにくやしからまし
新勅撰集・紫式部
*紫式部が渡殿の局に寝た夜、一晩中藤原道長に戸をたたかれた時の歌。
水鶏は道長のこと。「そのままではすますまいと熱心に戸をたたく水鶏の
ことゆえ、戸を開けたらどんなに後悔することになったでしょう。」
この雪の消(け)ゆかむがごと現身(うつそみ)のわれのくやしき命か果てむ
斎藤茂吉
悔しくも過ぎし一つぞ凛凛と雪かげろうは眼にしみる
鵡川忠一
*「悔しくも過ぎし一つ」の内容が読者には分らない。
悔しめど悔しみ尽きぬ生きざまの涯の四十ぢぞと若きらに告ぐ
岡野弘彦
茫々と昂(たかぶ)りすぎしきぞの夜か悔いてすべなき酔語の幾つ
長澤一作
悔しさを常持つわれも嵯峨に来て落葉を踏めばこころ和(なご)むも
吉井 勇