天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

感情を詠むー「悔しさ」(2/4)

  つひにかくそむきはてける世の中をとく捨てざりし事ぞくやしき
                    平家物語・平康頼
山口県峨眉山普賢寺の境内にこの平康頼の歌碑が立っている。

 

  ただならじとばかりたたく水鶏(くひな)ゆゑあけてはいかにくやしからまし
                    新勅撰集・紫式部
紫式部が渡殿の局に寝た夜、一晩中藤原道長に戸をたたかれた時の歌。
 水鶏は道長のこと。「そのままではすますまいと熱心に戸をたたく水鶏の
 ことゆえ、戸を開けたらどんなに後悔することになったでしょう。」

 

  この雪の消(け)ゆかむがごと現身(うつそみ)のわれのくやしき命か果てむ
                        斎藤茂吉
  悔しくも過ぎし一つぞ凛凛と雪かげろうは眼にしみる
                        鵡川忠一
*「悔しくも過ぎし一つ」の内容が読者には分らない。

 

  悔しめど悔しみ尽きぬ生きざまの涯の四十ぢぞと若きらに告ぐ
                        岡野弘彦
  茫々と昂(たかぶ)りすぎしきぞの夜か悔いてすべなき酔語の幾つ
                        長澤一作
  悔しさを常持つわれも嵯峨に来て落葉を踏めばこころ和(なご)むも
                        吉井 勇

f:id:amanokakeru:20190712000230j:plain

水鶏(くひな) (webから)