天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

感情を詠むー「憎む」(2/5)

  鳥は啼け兵はたたかへ女は産めわれは天日(てんじつ)のたかきを悪(にく)む
                       明石海人
*明石海人は、大正12年結婚、2女をもうけるが、昭和3年ハンセン病と診断され、
 岡山県の長島愛生園で療養生活をおくり、昭和14年に39歳で死去した。下句の
 心境が痛切。

 

  憎まるるなにせんとにくまれ役買ひてきほひしわれの三十路も恋し
                       木俣 修
  世をあげし思想の中にまもり来て今こそ戦争を憎む心よ
                       近藤芳美
*「世をあげし思想」とは、大東亜共栄圏構想のことであろう。当時は
 隠していたが、「今こそ戦争を憎む心よ」と詠う。

 

  大楡の新しき葉を風揉めりわれは憎まれて熾烈に生たし
                      中城ふみ子
  スリッパの濡れたる音を引く老婆憎めば老婆とも繋がれてゐる
                      中城ふみ子
  冬来ると心いぢけて雑草の猛(たけ)きみのりも憎しむものか
                       斎藤 史
  暇とはいきどほるためにあるのかと思はむばかり時代を憎む
                       山本友一

 

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スリッパ