天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

感情を詠むー「憎む」(3/5)

  眼の前に埃の如くさがりくる蜘蛛さへ今日の今の憎しみ
                       小暮政次
  蓬野に母ひざまづきにくしみの充電のごとながし授乳は
                       塚本邦雄
*「にくしみの充電のごと」とは、凄まじい直喩である。母は子を通して子の
  父を憎んでいるようにもとれる。

 

  にくむべき詩歌わすれむながつきを五黄の菊のわがこころ踰ゆ
                       塚本邦雄
*「五黄の菊のわがこころ」が、ながつき(十一月)を越えた、という構文。

 

  日の当る林檎おかれし卓あればなべて平安といふを憎みつ
                      尾崎磋瑛子
*尾崎磋瑛子は、歌人尾崎左永子の本名。松田さえこ とも称した。自分は
 不幸であると思っている時に、こうした憎しみを抱くのであろうか。

 

  細部まで思い描きて憎むとき地平のごとく遠し彼らは
                       岡井 隆
*細部まで思い描いて憎むとき、彼らは地平線のかなたにあるごとく遠く
 感じられる、という。細部が憎しみを遠ざける、と言っているようだが。

 

  暗青色の鉄かぶと並べる下の顔我は見ざりき憎むを怖れて
                      石川不二子
*鉄兜の下の顔とは、死者のものか? 背景が不明で唐突すぎる。

 

  兄弟として憎みつつ窓二つ向きあえりそのほかは冬田
                       寺山修司
*兄弟それぞれの部屋に窓があって、それらが向き合っていると読めるが、
 ちょっと不自然(よほど大きな家なのだろうか)。

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蜘蛛 (webから)