五感の歌―視覚(3/3)
みじかなる焔(ほのほ)燠(おき)よりたちをりてこのいひ難きいきほひを見ん
佐藤佐太郎
草がくる杙一つをば測量機のレンズの中に吾は見て居し
近藤芳美
*(光波)測量機は、光波を用いて特定の距離を測定する機械。
見るために両瞼をふかく裂かむとす剃刀の刃に地平をうつし
寺山修司
*上句と下句の取合せが、いかにも劇的で寺山修司調である。
幻視とはわれは思はず凍空より樹より脱走する血を見たり
春日井建
*幻視: 実際にはないものが、あたかもあるように見えること。「樹より脱走
する血」を想像することは、容易ではない。樹の一箇所の傷口から噴き出すのか、
どうか。
馬のむれ牛のむれ谷を隔てつつわが眼にあやし遠近の感
植松壽樹
*谷を隔ててみる馬のむれ牛のむれの遠近関係が、よく分らなかったのだろう。
近づきて仰ぐたぶの木ゆつたりとわれの視線を空にみちびく
沢口芙美