かりそめ(2/3)
前の評論を見たことを契機に、和歌短歌に詠まれた「かりそめ」を調べてみた。はかなさを詠むことを得意とする和歌短歌にしては、思ったほど多くなかった。
難波潟おふる玉藻をかりそめの蜑(あま)とぞわれはなりぬべらなる
古今集・紀貫之
*この歌における「かりそめ」は、「刈り初め」を掛けている。「べらなり」は、
状態の推量を表して、・・ようだ。・・ように思われる。を意味する。
あふ事のひさしにふける菖蒲草ただかりそめの妻とこそ見れ
金葉集・前斎宮河内
*菖蒲草は「あやめぐさ」。上句は掛詞の連続。久しぶりに逢う廂の年取った
菖蒲草は、ほんの一時的な妻と見える。
かりそめの浮世の闇をかき分けてうらやましくも出づる月かな
詞花集・大江匡房
見しことも見ぬ行末(すゑ)もかりそめの枕に浮(うか)ぶまぼろしの中
式子内親王
*過去に見たこともまだ見ないこれからのことも一時の枕に浮かぶ幻の中にある。
かりそめに心の宿となれる身をある物がほになに思ふらむ
玉葉集・永福門院
*ちょっとばかり心をゆるしたのに、なんでも可能なごとく思っているらしい。
ここにても雲居の桜さきにけりただかりそめの宿と思ふに
新葉集・後醍醐天皇
*雲居: ➀雲のある所。空の高い所。大空。天上。
➁皇居や宮中をもいう。
この歌では、➁を意味するだろう。皇居に咲いた桜を見ての感懐。
ははそはの母をおもへば仮初に生(あ)れこしわれと豈(あに)おもはめや
斎藤茂吉
*ははそは: 「柞(ははそ)」の葉。語頭の「はは」から、「ははそはの」は同音の
「母(はは)」にかかる枕詞。
豈: ➀〔下に打消の語を伴って〕決して。少しも。
➁〔下に反語表現を伴って〕どうして。なんで。 この歌では、➁の意味。
灯あかき都をいでてゆく姿かりそめの旅と人見るらんか
斎藤茂吉