天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

果物のうたー枇杷(2/2)

  事、平和に関りてより黙(もだ)ふかく枇杷食へりわれら膝を濡らして
                     塚本邦雄
  枇杷の汁股間にしたたれるものをわれのみは老いざらむ老いざらむ
                     塚本邦雄
枇杷の汁を股間に垂らしてしまったところから、自分の歳や今後が思われて
 自分だけは老いないでいたい、と詠んだのだろう。

 

  洗はるるつぶら枇杷の実つめたきを両掌にうくる手のかなしさや
                      篠 弘
  アルバイトわが終えくれば一籠のつぶらなる枇杷とどけられいき
                      篠 弘
  枇杷食めるこの夕あかり夜みえて苦しみの種子かわれの眼(まなこ)は
                     前登志夫
*食べている枇杷の種子が、眼を連想させたところからできた作品と思われる。

 

  おもひなく見てゐし枇杷の白き花陽あたる花に蜂はあつまる
                    石川不二子
  枇杷熟れる宵々なりき降り次ぎてほのくらがりは母をつつめる
                     松坂 弘
枇杷の実の熟れる頃の幾日か、夕刻に作者は母と共に次々に階段を降りて
 行くことがあったのだろう。母を介助している様子が見える。

 

  創世の神話宿らせゐるやうに皿につややかな枇杷種子ふたつ
                     松岡裕子
*林檎や柘榴は創世神話に登場するが、そこからの連想で作者は枇杷にも
 創世神話が宿っているように感じたのだろう。

 

     黒衣より掌を出し神父枇杷をもぐ  津田清子
     マリヤ観音面輪愁ひて枇杷青し  水原秋櫻子
     青枇杷や九十九折なす島の道    石川桂郎

 

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枇杷の実