天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

別れを詠む(9/10)

  へだたりしまま逝かしめて今日よりは偶然にても逢ふことはなし

                      田中子之吉

*初句二句が気になる。三句以下は当たり前のこと。気まずいことがあって仲直りしないまま、相手が亡くなったのであろう。

 

  お別れに吉野弘の詩を読みて顔を上ぐれば根子が泣いてゐる

                       柏崎驍二

*根子とは女性の名であろうか。吉野弘は代表的な現代詩作家であったが、平成26年に86歳で亡くなった。

 

  送り来て新幹線に別れたる幾たびかあり葬儀に向かふ

                      遠役らく子

*四句までの思い出の人の葬儀に行ったのだろう。新幹線に乗って行ったのだろうか。

 

  積もりゆく刻の花々いかにせむ ひととの別れ 友との別れ

                      槙 弥栄子

*美しい思い出が一杯あるのだろう。下句で少し考えさせられる。

 

  今しがた別れし人が四つ角でまた振り返り頭(こうべ)を下げる

                       小高 賢

  邦雄ゆき智恵子もゆきてしばらくを登志夫と語る弥生 白日

                      前川佐重郎

塚本邦雄、山中智恵子、前登志夫は、作者の父・前川佐美雄の弟子筋であった。

 

  あひともに盛りを過ぎむねぎらへる賛辞は訣(わか)れのことばと思ふ

                        篠 弘

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