千鳥のうた(1/6)
シギ目チドリ科に属す。鴫に似ているが嘴は短く、先がふくらむ。種類により鳴き声は違うが、哀調がこもり古来詩歌の素材となった。足をまじえて歩くので「千鳥足」、列になって飛ぶ様子は「千鳥掛」という。友千鳥、浜千鳥、夕波千鳥、小夜千鳥、むら千鳥 などの言葉がある。和歌ではよく詠まれたが(万葉集には、26首ほど)、現代短歌ではそれほどでもない。
淡海(あふみ)の海(うみ)夕波千鳥汝(な)が鳴けば情(こころ)もしのに
古(いにしへ)思ほゆ 万葉集・柿本人麿
*教科書に出ているほど有名な歌。「夕波千鳥」は、人麿の造語というが、
素晴らしい。「情もしのに」とは、心もしおれるほどに、といった意味。
飫宇(おう)の海の河原の千鳥汝(な)が鳴けばわが佐保河の思(おも)ほゆらくに
万葉集・門部王
*出雲守として出雲国に赴任していた門部王(かどべのおほきみ)が奈良の
都を思い出して詠んだ一首。「飫宇の海」は島根県の宍道湖の横の中海をさす。
佐保河は奈良県にある。
さ夜中に友呼ぶ千鳥もの思ふとわびをる時に鳴きつつもとな
万葉集・大神女郎
*大神女郎(おほみわのいらつめ)が大伴家持に贈った恋歌。意味は、「夜ふけ
に友を呼ぶ千鳥が、物思いの寂しい時に鳴きつづけて心に染みます。」
なお、大神女郎については詳細不明。
ぬばたまの夜(よ)の更(ふ)けゆけば久木(ひさき)生(お)ふる清き川原に千鳥
しば鳴く 万葉集・山部赤人
*久木は、アカメガシワまたはキササゲの古名。
佐保川の清き川原に鳴く千鳥蝦(かはづ)と二つ忘れかねつも
万葉集・作者未詳
わが門(かど)の榎(え)の実もり喫(は)む百千鳥千鳥は来れど君そ来まさぬ
万葉集・作者未詳
夕霧に千鳥の鳴きし佐保(さほ)路(ぢ)をば荒らしやしてむ見るよし
を無み 万葉集・円方女王
*円方女王は、長屋王の息女。これは、智努女王(ちののおほきみ)が死んだ
後に作った挽歌。死んでしまって逢いに行くこともできないので、道に草木が
深く繁って野にもどってしまう、という状況。