天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー耳(5/7)

  ゴッホの耳、否一まいの豚肉は酢に溺れつつあり誕生日
                      塚本邦雄
*塚本は、文化人・芸術家の誕生日をよく詠っている。そこから想像すると、ゴッホの誕生日に、作者は酢につけた豚肉を食べようとしている。その時、一まいの豚肉がゴッホの耳に見えた、という。

  犬の顔くづれ笑へばぴらぴらと藍の夜空に耳そよぎたり
                      玉城 徹
  白昼の火事にまつわる音だけをききわけている右側の耳
                      熊谷龍子
  しんきらりと鬼は見たりし菜の花の間(あはひ)に蒼きにんげんの耳
                      河野裕子
*「鬼」とは、作者自身のことであろう。「しんきらりと」は、「にんげんの耳」の見え方を差している。

  み仏の欠けたる耳を悲しむやわれに汚れし耳ふたつあり
                      松岡裕子
  聾いし耳聾いざる耳と両側にありていかなる存在かわれ
                      川口常孝
*川口常孝は、片方の耳が聞こえなかったようだ。

  ほしいまま木をいたぶりし青嵐の過ぎれば耳下にふかく熱もつ
                     久々湊盈子
*「耳下に」が分かりにくい。耳下線といえば、耳の下にある唾液を作る臓器で、その中を顔の筋肉を動かす顔面神経が貫いている。

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ゴッホの耳