母を詠む(3/12)
死に近き母に添寝のしんしんと遠田(とほた)のかはず天(てん)に聞ゆる
斎藤茂吉
春ふかし山には山の花咲きぬ人うらわかき母とはなりて
前田夕暮
日は稍々(やや)にかたむきそめぬ遠木立烟(けぶ)れり母の脈たへし時
前田夕暮
われを恨み罵(ののし)りしはてに噤(つぐ)みたる母のくちもとにひとつの歯もなき
若山牧水
ははそはの母のおもとの水しわざ澄みかとほらむこの寒の入り
北原白秋
*おもと: 古典園芸植物の「万年青」。
わがこころいたく傷つきかへり来ぬうれしや家に母おはします
吉井 勇
丈高き蜀葵(しよくき)は庭にゆらぎをりあいさつすみて姑(はは)と語らふ
三ヶ島葭子
*蜀葵:からあおい、とも読む。タチアオイ(アオイ科の越年草)の古名。
たはむれに母を背負ひて
そのあまり軽きに泣きて
三歩あゆまず 石川啄木