大空を眺めてぞ暮す吹く風の音はすれども目にし見えねば
拾遺集・凡河内躬恒
あめの下芽ぐむ草木の目もはるにかぎりもしらぬ御代の末末
新古今集・式子内親王
夜な夜なは眼のみさめつつ思ひやる心や行きておどろかすらむ
後拾遺集・道命
夜の灯のともり出でしを見やる児のあな何といふまじめなる眼ぞ
窪田空穂
貼り換へむ障子もはらず来にければくらくぞあらむ母は目よわきに
長塚 節
いや高くあがりゆく雲雀(ひばり)眼放さず君の見ればわれはその眼を見るも
川田 順
こころみに眼とぢみたまへ春の日は四方に落つる心地せられむ
前田夕暮
二首目の「目もはるに」は、見晴るかす限り、という意味。
三首目の道命の父は藤原道綱。幼時に比叡山で出家。機知諧謔の歌が多いが、無常観や山里、旅の趣を詠んだ秀歌も残している。この歌もしかり。夜な夜な相手のことを思いやっていると相手にその心が届いて驚かす、という。宗教からきている考え方だろう。
前田夕暮は不思議な体験を詠んでいるようだ。「春の日は四方に落つる」とは、どのような情景なのだろう。春の日の持つ独特な効果を言っているようだが。