天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食のうたー魚介(1/7)

 鰻については過去のブログで多く取り上げているので、このシリーズでは省略する。

 

  沖方(おきへ)行き辺に行き今や妹がためわが漁(すなど)れる藻臥(もふし)

  束(つか)鮒(ふな)             万葉集・高安王

*この歌は高安王が裹(くづつ)(わら・糸などで編んだ袋)でつつんだ鮒を娘子に贈ったときに添えた一首。「沖へ行き岸を行きたった今、あなたのために私が獲って来た藻臥しの鮒です。」という意味。「藻臥しの鮒」とは藻の中に潜む小さな鮒のこと。

 

  古へはいともかしこし堅田(かたた)鮒(ふな)つつみやきなる中の玉(たま)章(づさ)

                     夫木抄・藤原家長

堅田鮒 : 滋賀県大津市堅田の琵琶湖沿岸で多くとれるところからの命名で、 「げんごろうぶな」の異名。玉章: 手紙・便りの美称。あるいは料理で、材料を結び文のように結んだもの。鮒の腹の中に手紙を詰め込んだか。

 

  寒鮒の頭も骨もとりにける昔おもへば衰えへにけり

                         島木赤彦

*若いころは、寒鮒の頭も骨も丸ごと食べたものだったのだが、今は歯も衰えてとてもできない。

 

  松浦(まつら)川川の瀬光り鮎釣ると立たせる妹(いも)が裳の裾濡れぬ

                     万葉集大伴旅人

*「松浦川の川の瀬は光り鮎を釣ろうと立っておられるあなたの服の裾は美しく濡れています。」

松浦川は、肥前の国を流れる川。現在では佐賀県内を流れる小河川で、唐津湾に注いでいる。

 

  みよしの の むだ の かはべ の あゆすし の しほ 

  くちひびく はる の さむきに        会津八一

奈良県吉野郡吉野町六田(むだ)の近くには吉野川が流れている。その川辺で売っている鮎寿司が塩辛い、という。この鮎寿司は柿の葉寿司とともに有名。

 

  醤酢(ひしほす)に蒜(ひる)搗(つ)き合(か)てて鯛願ふ我にな見せそ水葱(なぎ)の

  羹(あつもの)           万葉集・長忌寸意吉麻呂

*「醤(ひしほ)と酢(す)をまぜたものに蒜をつぶして鯛を食べたい。水葱の羹なんかはいらない。」これは「酢・醤・蒜・鯛・水葱」を詠み込んだ戯れの歌。

 

  太平は一日(ひとひ)たりとも感謝せむ貰ひし鯛を味噌漬けにして

                         吉田正俊

  鯛の目玉も喰い終りたればちょっぴりづもりのぐい呑み

  酒も終りとするか               加藤克己

 

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寒鮒 (webから)