食のうたー米、飯、ごはん(6/6)
壜の米棒もて搗ける母の後姿(うしろ)しのつく雨を見てありしかば
島本正靖
*戦後の家庭で見られた懐かしいような風景。
米煮ゆる匂ひ立ちゐて短歌的抒情の骨子いやしまずゐる
石橋妙子
*米が煮える匂いが立ち込める情景は短歌の抒情に合うという。短歌に詠むことは決して卑しいことではない。
水鳥の羽撃くごとき音立てることあり闇に煮えてゆく米
王 紅花
生き残る必死と死にてゆく必死そのはざまにも米を磨ぎゐつ
雨宮雅子
みまつりの三日をそらははれわたる健治よ岩手の米はうまいぞ
馬場昭徳
二合炊きて二人食ひ猫の分にすこし残さむ暑き夏の日
長谷川銀作
そこに出てゐるごはんをたべよといふこゑすゆふべの闇のふかき奥より
小池 光
*少年の頃の思い出か。外から家に帰ってくると電気もつけない家の奥から「そこに出てゐるごはんをたべよ」という声が聞こえたのだ。
老いた母 太肉(ふとじし)の母 若き母かさなりて呼ぶ ごはんにしましょ
日高尭子
*若いころ、中年太りのころ、老いてからも いつも母は「ごはんにしましょ」と呼びかけたのだ。懐かしい母の面影。