天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

食のうたー肉(2/2)

  塩ふりて牛舌(タン)を焼きいる吾等二人 子を成せしなり若かりしかば

                       須藤若江

  鴨を焼く炭火の匂ひ幾年ぶりか心のなごむ今のわが思ひ

                      大河原惇行

  寒き夜肉焼きて食ひ酒のめり生まれて、食ひて、生きて、老いて、去る

                       高野公彦

  冷蔵庫に五ポンドの肉を蔵(しま)ひをへしづかなりふとわれも蔵はる

                      小島ゆかり

*結句は、自分の仕事も終わった、という感慨であろうか。

 

  シャリアピンステーキの由来かつて吾に説きたる人は海辺に老ゆ

                      山田富士郎

シャリアピン・ステーキ: 昭和11年に日本を訪れたオペラ歌手、フョードル・シャリアピンの求めに応じて作られた牛肉のマリネステーキの一種。日本以外ではほとんど知られていない。(フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』から)

 

  くれなゐの鹿のロースの冷えてゐる霊蔵(れいざう)の庫(くら)にゆふべ近づく

                       伊藤一彦

*冷蔵庫という代わりに「霊蔵(れいざう)の庫(くら)」という言い方に、生き物を食することへの後ろめたさが込められていよう。

 

  層厚き三枚肉が鍋の中プルリと揺れたり活断層のズレ

                      春日いづみ

活断層: 断層のうち近年の地質時代(数十万年間)に繰り返しずれた形跡があり、今後もずれる可能性があるもの。(「知恵蔵」の解説から)

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ステーキ