天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

住のうたー家・庵・宿(5/14)

  妻が編む毛糸の金の光る夜をともしに居れば巣の如き家

                     田谷 鋭

  ここにまた家は建ちゐてかつがつに生くるのみなる心は疼く

                     田谷 鋭

  家のもつ重さのゆえに死ぬなりと死にゆく母は遂に知らざりき

                     川口常孝

*上句の認識は作者のもの。母はそのようには思っていなかったのだろう。

 

  昼と夜の堺を行けば時じくのかなしみならむ老いたる家は

                     前登志夫

*時じく: いつでもあるさま。

 

  父よその胸郭ふかき処(ところ)にて梁(はり)からみ合うくらき家見ゆ

                     岡井 隆

  我が継がずなりにし家ぞ仰ぎゐてひたぶるにさびし屋根の雑草(あらくさ)

                     岡野弘彦

*ひたぶるに: ひたすらに。

 

  父が建てし家に父亡き後を住み灯ともす時の息子さびしき

                    佐佐木幸綱

  家深く昼はこもりつゆうぐれは生木燃やしつわれを恕さず

                     伊藤一彦

  かへり来て人居ぬ家のしづまれりただ黙しつつ床に入りゆく

                     五味保儀

  身を寄せる家をつくれりいくばくか花咲く木木を植ゑて春を待つ

                     石川一成

 

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毛糸