天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

この世のこと(10/16)

  うき世をば出づる日ごとに厭へどもいつかは月の入る方をみむ

                  新古今集八条院高倉

*「つらい現世を、朝日が昇るたびに厭い、遁れ出たいと思うけれど、いつになったら、月の沈むほう、西方浄土を拝むことができるのだろうか。」

 

  昔よりはなれがたきは憂世かなかたみにしのぶ中ならねども

                   新古今集藤原兼家

*「昔から離れにくいものは憂き世だな。互いに慕い合う粋な仲というのではないが。」

 

  たのめ置かむたださばかりを契りにて浮世の中の夢になしてよ

                  新古今集藤原定家

*「後世を約束してあてにさせておきましょう。ただそれだけのことを縁として、これまでのことは辛い現世の儚い夢と思って、あきらめてしまってください。」求愛を拒絶する歌。

 

  うき世には今はあらしの山風にこれやなれ行くはじめなるらむ

                   新古今集藤原俊成

*「辛い現世にはもう留まるまいと思って籠る嵐山の山風に、これが馴れてゆく始めなのだろうか。」  「あらし」は、「あらじ」と「嵐」の掛詞。

 

  恨みずやうき世を花の厭ひつつ誘ふ風あらばと思ひけるをば

                  新古今集藤原俊成女

*「恨まずにいられようか、花が浮世を厭いつつ、「風の誘いがあるなら、散ってしまおう」と思っているのを。」

 

  秋の夜の月に心をなぐさめてうき世に年のつもりぬるかな

                   新古今集・藤原道経

 

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秋の夜の月