天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

思想(1/5)

 思想とは、人がもつ、生きる世界や生き方についての、まとまりのある見解。多く、社会的・政治的な性格をもつものをいう(辞書から)。現代短歌において多く詠まれている。

 

  積みあげし鋼(はがね)の青き断面に流らふ雨や無援(むえん)の思想あり

                     宮 柊二

*結句は、その上の情景を眺めていて湧いてきた思いであろう。

 

  種(しゆ)の別(べつ)は無くしたくとも叶はぬか思想より種の別は強きか

                     宮 柊二

*この歌での種は、人種を指していよう。

 

  旧(ふる)き権威亡び行くとき今に学び君ら思想の陰惨を知らず

                     近藤芳美

*「旧き権威」は「思想の陰惨」と一体であった、という。

 

  微小なる人間に「問い」という営為かなしみに思想と呼ぶものを継ぐ

                     近藤芳美

  つややかに思想に向きて開ききるまだおさなくて燃え易き耳

                     岡井 隆

  深い思想があると思つた 欅から不意にかなかなのこゑたちのぼり

                     岡井 隆

  よいとまけの綱ひく声す余剰の思想もたざる清く充ちしこゑ

                     田谷 鋭

*よいとまけ: 建築現場などでの地固めのとき、大勢で重い槌 (つち) を滑車であげおろしすること。また、その作業を行う人(辞書から)。

 

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かなかな