天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

心を詠む(15/20)

  かさかさになりし心の真ん中へどんぐりの実を落としてみたり

                      山崎方代

*「かさかさになりし心」からは都会生活を、「どんぐりの実」からは懐かしい故郷を連想する。

 

  心には形(かたち)はあらず限りなく深き心を持てとなるべし

                      都築省吾

*心の形とか深い心と言われても想像しにくい。例えば、考え方なり思いが、いくつかのところを堂々巡りする場合に、心の形といえるか? また特定の考えなり思いが、止め処なく深まる場合に、深い心といえるのだろうか?

 

  よぢれつつのぼる心のかたちかと見るまに消えし一羽の雲雀

                      藤井常世

*雲雀の上昇してゆくよじれの飛跡を雲雀の心の形と想像したようだ。

 

  咲く花に寄りゆく心深みつつかくてひらくる日々ありとせむ

                     窪田章一郎

  わが年譜事をつらねぬ記さざる心の境はなほもさびしき

                     窪田章一郎

*年譜には事実を記しても心の内を書くわけでないので、満足できないところがあるのだ。

 

  恕(ゆる)さざる情(こころ)と恕す心とのはざまに揺るるこころもわがもの

                      橋本喜典

  吊橋を渡り了りて見返るはなお揺れやまぬこころ視むため

                      橋本喜典

  土の鈴振りつつ昔も今もなき今の心をあたたむるなり

                      築地正子

*「昔も今もなき」とは、時代によらない、ということだろう。

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吊橋