戦争を詠むー兵(4/5)
夏の巷、黒きいなごのごとき手の樂(がく)嫋嫋とつよし廢兵
突風に生卵割れ、かつてかく撃ちぬかれたる兵士の眼
膝頭いたく尖りて死にし兵かたへに置きて雪に穴掘る
大内與五郎
*過酷な労働を強いられたシベリア抑留における体験らしい。
火の色に行き行く旗らまなうらに夜を寝むひとりの脱走の兵
近藤芳美
革命の女兵士にて銃を膝にひととき恍と口紅をひく
太田青丘
かつてわれ兵に召されて忠節を励みて二つ星いただけり
山崎方代
*作者は昭和16年に臨時招集され、シンガポール、ジャワ島、ティモール島などを転戦、ティモール島のクーパンの闘いで負傷し、右目を失明した。
かかるものを文字は残せり病みてわが兵たりえぬを悲しみし歌
竹山 広
ただひとり喊声あげて尾根のみち迫りくる敵兵だれが撃つのか
舛井義郎