天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

大樹を詠むーケヤキ

 ケヤキ(欅)は、ニレ科の落葉高木。ツキ(槻)ともいう。高さ20 - 25mの大木になり40mを超す個体もある。

 

  欅大樹昏れんとしつついましがた蝉鳴きやみしのみの空白

                       長澤一作

  冬されば高き欅の枝(えだ)又(また)に円形(まろがた)ほやのゆれかかるみゆ

                        岡 麓

*ほや: ホヤの原産地は熱帯アジアやオーストラリア、太平洋諸島。沖縄や九州など日本の南部でも自生している。ホヤはツル性の植物で、ほかの樹木の幹や岩肌にからみついて育つ。

 

  地の上にてわが手ふれゐるこの欅は高みの梢へ芽ぶきつつあり

                       木下利玄

  西空に月は大きくかたむきて幹立(もとだち)しるし丘のけやきは

                       半田良平

  下かげは暮れいそぎつつけやき木の上枝(ほつえ)しみ立つ空の明りに

                       半田良平

  大いなる欅にわれは質問す空のもっとも青からむ場所

                       寺山修司

  朝鳥の来鳴く欅の窓を近み四十雀の小さき舌見ゆるなり  

                      佐佐木幸綱

  おのずからたのむ心に誘われるけやきは空の夏木立なり

                       三枝昂之

  空をわたる魚群となりて大欅をのがれゆけ幾万の梢の若葉

                       森山晴美

  音もなく宙よりくだる霜のかぜ欅大樹の夜の世界あり

                       山田あき

  塩地蔵のみ堂のめぐり大欅の芽ぶかむとする沈黙は満つ

                       室田陽子

*塩地蔵: 塩をふりかけて願を掛ける地蔵尊。塩には、不浄を祓い邪悪を退ける霊力がある、という俗信に基づく。

 

  大欅はつか角ぐむ千の手を滅(けし)紫(むらさき)の空に差し伸ぶ

                       大湯邦代

*滅(けし)紫(むらさき): くすんだ紫の一種。格の高い色(参議以上の位の人に許された外出着の色であった)。

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ケヤキ(俣野別邸庭園にて)