大樹を詠むークス
クス(樟、楠)は、クスノキ科の常緑高木。暖地に生えて、幹回りが3 m以上になる巨木が多い。樟脳になる香木として知られ、飛鳥時代には仏像の材に使われた。
和泉なるしのだの森の楠の木の千枝にわかれて物をこそ思へ
夫木抄・よみ人しらず
*「和泉の国にある信太(しのだ)の森の楠の木の枝が細かく分かれるように、心が千々に乱れてもの思いをすることだ。」
青(じやう)蓮院(れんゐん)大門(だいもん)わきの古き楠今日ふく風に青葉そよがす
窪田空穂
*青蓮院: 京都市東山区粟田口にある天台宗の寺院。開山は伝教大師最澄。
空襲に焼けたる楠のひこばえの蔭(かげ)になるまで住みつきにけり
*ひこばえ: 樹木の切り株や根元から生えてくる若芽のこと。
樟の木の若葉にしぶく昼の雨阿波より土佐に山越えむとす
一木にて森をなしたる楠の木を仰ぎつつ来てその蔭に入る
中西輝麿
黄昏の空枝の間に見えながら樟の大樹はすでに昏れたり
神田あき子
くろぐろと闇たぐりこみそそり立つ大樟おとこならば惚れむに
久々湊盈子
[注]蒲生のクス
鹿児島県姶良市蒲生町の蒲生八幡神社境内にそびえ立つ大楠は、樹齢約1,500年、根周
り33.5メートル、目通り幹囲24.22メートル、高さ約30メートルと日本で一番大きな樹
木。国特別天然記念物(昭和27年指定)。