短歌における表記の効用(4/8)
◆ひらがな、カタカナ 4/4
今までの例で見てきたように、通常散文では漢字表記する言葉をひらがなやカタカナにすろと読者の注目を集める。あらためてその言葉の原義まで考えてしまう。そこが作者の狙いのひとつである。作品に奥ゆかしさと謎を付加する効果がある。
いただきし西洋梨の実のひとつたなごころにてあたためてゐる
『梨の花』
六地蔵の赤き頭巾にしら雪のふりつもるころもふたつきの後(のち)
鉛筆を削ること好きなこどもゐてえんぴつぐんぐん短くなるも
をさなごの身の丈ほどの梅の木に花はともれるこのゆふぐれに
からだいためて休みてをりし長(をさ)の子が復職とげしことをよろこぶ
小さくて痩せつぽつちの猫なりき水のむおとのいまにひびきて
遠ざかりゆかむくるまを呼びとめてあつあつの芋いつぽん買ふも
三畳一間にふたり棲めるか「神田川」きくときつねにうたがひにける
田岡宏美ゆめに出てきてもの言へり三十幾つで死にしをしへご
郵便局にむかし電報の用紙ありうすみどりいろの罫(けい)のまぶしさ
乳児車に乗せられきたるふたごありともに笑へばほとけのごとし
昨日降りし十一月のしら雪が艸(くさ)のみどりのうへにのこれる
日のあたる卓のうへにはしづかにもものおもひする冬の蠅ひとつ