天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

小池光歌集『梨の花』(1/11)

 小池光さんの第十歌集『梨の花』(現代短歌社)全563首を読み終わった。小池さんの短歌技法については、このブログですでに2019年1月6日~1月26日の「知の詩情」シリーズに要約しておいた。『梨の花』の作品群は、これら様々な技法が融合されて詠まれたもので、現代短歌の最高峰に位置すると信ずる。
 本シリーズでは、この歌集で特筆すべき事項について、簡単にまとめておきたい。詳細は読者諸氏がご自身で歌集を読んで存分に味わって頂きたい。なお、小池さんが短歌講座で解説されている短歌作法を、ご自身の作品に適用して考える機会ともしたい。ただ、小池短歌研究のテーマでもあるので、詳細は後日に回したい。

■表記(ひらがな・カタカナ・漢字の使い方、読み方)
 特にどの言葉をひらがな表記にするかは、短歌を視覚的に鑑賞する上で大変重要になる。

  ゆくりなくおもひいでたりフォークダンス異性の髪のにほふせつなさ
  家の中に入り来し太き夜の蟻をつぎからつぎにみなころしけり
  いろいろのことがありたるとしつきや無二なるいのちつひにうしなふ
  うつくしくわらへる老いし女性ありさくらんぼの実をいま食はむとす
  いただきし西洋梨の実のひとつたなごころにてあたためてゐる
  鉛筆を削ること好きなこどもゐてえんぴつぐんぐん短くなるも
  小さくて痩せつぽつちの猫なりき水のむおとのいまにひびきて
  遠ざかりゆかむくるまを呼びとめてあつあつの芋いつぽん買ふも
  三畳一間にふたり棲めるか「神田川」きくときつねにうたがひにける
  くらやみに定家葛のにほひしてわがひとり住む家はちかしも

 小池さんは、仙台文学館「小池光短歌講座」において、
「短歌はすべてひらがなで書いてみて、どうしても漢字に直さなければならないところを直していけばいい。ひらがなで書くと、歌が美しく見える。」「漢字が多いと短歌の全長が短くなる。短い歌はどこかだめ。伸びやかさがない。」「二語熟語が連打されると、歌らしくなくなる。平仮名にならないか考える。」
と語っている。

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歌集『梨の花』(現代短歌社)