あなかしこ やまとをぐなやー。国遠く行きてかへらず なりましにけり
釈 迢空
*あなかしこ: 連語《感動詞「あな」+形容詞「かしこし」の語幹》。
「ああ、恐れ多い。」の意。
雪のこる遠くの山に背をむけて麦ふんでゐる一人の男
矢代東村
またひとり顔なき男あらはれて暗き踊りの輪をひろげゆく
固きカラーに擦れし咽喉輪のくれなゐのさらばとは永久(とは)に男のことば
*塚本邦雄の有名歌のひとつ。上句は短歌定型のくびきを比喩しているのか。下句は
そんな短歌を捨てきれない男の負け惜しみなのか。
をとこたちは竹を伐りしやゆく河の朝のひかりが胸へ折れ来る
永井陽子