天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

短歌のリズム

 『短歌研究』で現在、小池光が「短歌を考える」というすばらしい連載を書いていることを、以前に紹介した。最新の七月号では、五七五七七のリズムにおける初句から結句のそれぞれの役割・効果について解説している。以下に要点をまとめる。

前提: 日本語の定型は、短歌に限らずすべて句の等時性という原則で
    成り立っている。短歌の五音句と七音句は同じ時間で読む。

初句: イントロであり、音数にバリエーションがあり融通がきく。
    四音で始まる場合、例えば、「さねさし」「しらぬひ」と
    いった枕詞では、奇妙な欠落感が生じる。逆に六音、七音で
    始まる歌もある。例えば、塚本邦雄は初句七音を得意とした。
    この微妙なリズムを味わうことが、短歌を読むということ。

  さねさし相模の小野にもゆる火の火中に立ちて問ひし君はも
                      弟橘姫
  馬を洗はば馬のたましひ冴ゆるまで人戀はば人あやむるこころ
                      塚本邦雄


第二句:融通が利かないので、まず七音厳守と考えて間違いない。
    特に音数を減らすことは厳禁である。字余りの場合は、
    等時性の原理によって加速して読むことになるので特異な
    効果を発揮することがある。

  有島武郎氏なども美女と心中して二つの死体が腐敗して
  ぶらさがりけり             斉藤茂吉

                      

第三句:中央にあり、臍であり、上句下句を繋ぐ蝶番であり重要。
    ここをどうさばくかでリズムが決まる。ここを字足らずに
    することは許されない。逆に六音にすると、屈折、屈曲を
    作るので、独特の効果があらわれる。

  瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり
                      正岡子規


第四句:少々手荒な変形を加えても短歌は壊れない。定型五句の内、
    もっとも自由度を有する。相当大きな字余りでも許容できる。
    ただし、ここでも字足らずは不可。

  有島武郎氏なども美女と心中して二つの死体が腐敗して
  ぶらさがりけり             斉藤茂吉

                      

結句: これまでの句で変形が出ていても、結句が七音で収めれば、
    短歌の形に安定する。結句は必ず七音にすべし、と考えて
    間違わない。ただし、例外はある。あえて結句を字足らず
    にして欠落感を出す手法がある。

  紡錘絲ひきあふ空に夏昏れてゆらゆらと露の夢たがふ
                      山中智恵子