天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー樹木(3/11)

  苗植ゑて十万本になりぬべし群れてけぶれる杉の実花粉

  春雨に松の落ち葉のあからめる庭を通りてゆく戒壇

  極楽寺坂のトンネル覗き込む山の桜と橋の上の我

  大枝垂桜見に来る見て帰る人のあふるる入生田(いりゆうだ)の駅

  遊行寺のおほき木蓮咲きにけり毎年見るもたふとかりけり

  軒下に棚を作りて並べたりお猪口に植ゑしグミ、ユスラウメ

  献香の煙被りて手を合はす若葉まぶしき川崎大師

  火山灰被りし森に梅雨くれば色の濃くなる胴吹き若葉

  いつ埋めし何の木の実か忘れけり青芽出で来るカボックの鉢

  事任(ことのまま)八幡宮の楠若葉注連縄細く幹太かりき

  杉山の杉の精霊流れ出づ奥多摩川の水青白き

  双子はやベビーバギーに並べゆくカナリーヤシの並木の道を

  ビニールの包帯巻ける大欅幹の半ばで伐られて立てり

  根方より枝見上ぐれば葉の散りし鈴懸の樹の白き骨組

  颱風に倒れし樹齢四百年アラカシの木に触れてぬくとき

  竹林に囲まれたれば手なぐさみ竹の細工を受付に売る

  五平もち串焼きさざえ売る屋台河津桜の土手がにぎはふ

  鯉跳ぬる音に驚き木蓮の蕾ふくらむ春の夕暮

  ふる里の声をはるかに眠りたる藤村夫妻梅の木の下

  八頭の大蛇が酒に酔ふごとき大き蘇鉄は支へられたり

  駅を出て二時間半を登り来ぬ不伐の森のブナの

  柏手の音吸ひ込める大楠の虚ぬばたまの闇を抱けり

  壁を這ふ蔦の触手は広がりてコンクリートの家抱きしむる

  山頂のさくら越し見ゆ人の世の息吹激しき宅地造成

  夜桜の闇の奥処にとどろけり飯山白龍雨乞太鼓

  さくら咲く山の麓の観世音独活一束を買ひて帰りぬ

  樹齢約六百五十年といふ幹衰へし羽衣の松

  人の手に生き長らふる羽衣の松の梢に顕(た)つ浅みどり

  葉桜の青める蔭に並びたり遊行寺歴代上人の墓

  市庁舎の真白き壁に葉の触るる大き青桐をつくづく見たり

  若き日の記憶は失せてしづもれり樅の林の大学山荘

  植林の昔を暗く残しけりうち捨てられし檜の林

  闇まとふ椰子の木立の上に出づティグリス河の元旦の月

  這ひ松もオドリカンバも地に伏して風やり過ごす知床峠

  竹林の白き粉噴く今年竹人の手形に擦れて光れる

 

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蘇鉄