天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー樹木(1/11)

  御仏は灼熱の国天竺に檳榔樹(びんらうじゆ)の風沙羅双樹の花

  大樟の長寿の息吹き慕ひつつ注連張る幹に顔寄せてゐつ

  虫棲まぬ植物園に朽ち果てつうつぼかづらの食虫袋

  元日の神籤を結ぶ梅が枝にはやくれなゐの蕾出でたり

  崖を這ふ木の根は岩の水を吸ふ岩砕かれて土に返るも

  散り果てて枯葉一枚残らざる梅の梢の薄きくれなゐ

  をちこちに太鼓たたきてとんど焚く梅は蕾の下曽我の村

  木々の芽のくれなゐけぶる山並みのくぼみに雪の消え残る見ゆ

  子供等の両手ひろげて抱きつきし大き樟の木囲みきれざり

  縄文期村のめぐりは植林の栗、鬼胡桃、漆、接骨(にはとこ)木

  老木は松喰虫に倒れたり歴史刻める松の切株

  傾きて道をふさぎし大木を斧に倒して山に死なしむ

  絞め殺し植物の蔓に巻き付かれ巨木の溶けて立てる空洞

  手合はせて斧を打ち込む杣人の檜を倒す木霊響くも

  頼朝の墓をはさめるマキとタブ茶屋閉ざされて降る蝉時雨

  中村座枝垂れ桜を市村座枝垂れ梅をぞ植ゑ奉る

  さよならと手のひら当てつ 立ち枯れし樹齢七百年の栃の木

  冬木立梢の穂先ちりちりと青きガラスの空を突き刺す

  先代の枯れたる幹を抱き立つ樹齢二千年の大楠

  銃弾をあまた抱ける大楠の暗々と立つ田原坂

  石古りし文化四年の常夜燈白木蓮の蕾ふくらむ

  病みたれば伐られしならむ切り口に樹液溜めたる桜太枝

  百姓が朝(あした)の山に採りにけむ酒の肴の独活(うど)とたらの芽

  昭和二年頼朝の墓に指定さる槙、椨、楠の囲む石塔

  イヌマキのひどく捻れし幹を見れば意固地なる人面影に立つ

  たわたわに青き実のなる奄羅樹(あんらじゆ)の中宮寺門夏の日盛り

  松の木の太き木立ゆ見る海の霞める沖を白き船ゆく

  聞こえくる大杉木立の息づかひ野分の跡の木漏れ日の中

  くれなゐの爪を開きて踊りゐるテレビの上のカニバサボテン

  つややかに幹のめぐりの太りたる桜木立てりいつもの場所に

  沿道に並ぶ椿の散り果てて紅白分かず枯れて重なる

  青桐の苗を配りて語り継ぐ被爆の町に生きのびしこと

  剪定の梅の小枝を振り回し下校の子等が梅林をゆく

  赤松のあかき肌へに耳つけてこの世見て来しつぶやきを聞く

  蛸杉が足くねらせて聳え立つ高尾の山に春はきにけり

 

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沙羅双樹