天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

わが歌集からー樹木(4/11)

  さやさやと秋風に揺るうら若きメタセコイアのさみどりの梢(うれ)

  酸橘(すだち)三つ姫柚子五つ買ひにけりめでたかりける極楽寺

  心にも傷が残ると竹林の落書禁ずるいましめの札

  夕されば小鳥集ひてかしましき樹齢九十年のくすの木

  地獄門と化したる根方大楠の梢に今も水行き渡る

  空洞の幹の根方に虚空蔵菩薩抱けり霊樹クスノキ

  延焼の火傷とどめて枯れ残る寂光院の汀(みぎは)の桜

  あたたかき日もありけるを柚子の実にしぐれ冷たき稲村ヶ崎

  鬱深き杉の木立にしみじみと冬日洩れ来る山の静かさ

  思ふさま枝を拡げて老いにけり時雨に濡るるさるすべりの木は

  寒風に赤肌さらすヒメシヤラのわれより長き一生思へり

  らくやきの仕上り見ればあはれあはれわがヒメシャラはあかあかと燃ゆ

  頼まれてシャッター押せり寒々と男女ふたりが梅林に立つ

  老木の朽ちて臭はぬ清しさよ苔蒸すままに土に還れる

  町を来しマスク外して吸ひ込まむ雨に覚めたる木々の息吹を

  中津宮奥に光れる円(えん)鏡(きやう)に映る大空タブの大木

  樟、檜一本作りの仏像がひしめく下田宇土金の村

  樹齢約二百年とふ山茱萸(さんしゆゆ)の張り出す枝に咲く黄金花(こがねばな)

  青白む水平線の空に浮く染井吉野の冬木の梢

  幾筋も根を張り出だし地を掴む山の斜面のコナラとクヌギ

  白骨をさらす大樹の多ければブナの苗木を金網に護る

  電線にかかる樹木を伐り倒す人より永く生き来しものを

  葉桜の蔭に並んで手招けり骨董市の布袋と狸

  葉桜の下に並べる骨董の小皿にたまる白砂ほこり

  青梅のふくらむ木陰鬱深く藤村夫妻の墓並びたり

  塔ノ沢阿弥陀寺橋を渡りきてひめしやらの湯に汗を落とせり

  大山の杉の木立の蝉時雨いろはもみぢの若葉明るき

  吾妻山頂き過ぐる秋風に大き榎の実は色づきぬ

  枝打をなさざる杉は荒々し千筋なす根が山を支ふる

  見上ぐれば目眩む高さ大杉の幹古りたれど力みなぎる

  大杉の幹に両手を押し当てて静かなる気を身に移しけり

  不動堂下にかかれる瀧染めて大雄山の紅葉の炎

  かりんの実ひとつもぎたりせせらぎの丸太の森に人影見えず

  ざはざはと桜もみぢを吹き散らし野分駈けゆく極楽寺の空

 

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