天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

句集『中今』

句集『中今』

 山田みづえの第七句集『中今』(角川書店)を読了した。筆者は「木語」主宰時代のわが師である。この句集には、私が「木語」に小文を寄せた懐かしい句が入っている。小文も掲載しておく。


         鮎焼くや山川のいろ顕ち来る    みづえ

   私が木語に入会して以来、平成五年一月号から平成十四年六月号
  まで、『木語』誌上の主宰の巻頭句群をパソコンに入力してあるが、
  全部で一〇二六句ある。この内から今回は、食材に注目した。
  食に関するものは八二句。中でも私が好きな魚関係を探すと、
  二0句見つかった。概して酒飲みは、魚を好むが、酒飲みでもない
  先生も魚がお好きと見える。
  河豚、蟹、からすみ、キャビア、鯛、鮎、牡蠣、鯵、鰯、さより、
  鰈、こうなごなど様々が登場する。
  先生の句に出てくる調理法は、炊込みご飯、鍋物、ぬた、煮物、
  塩焼き、鮨、麺もの、兜煮、笹漬とこれも多彩である。
  掲句は、平成十三年十月号に出ており、この前に
  〈みちのくより賜ひし鮎を敬へり〉
  という句がある。従って先生のお家で手ずから鮎を塩焼きにされて
  いる場面であろう。この鮎の色・艶を見ていると、贈り主が住んで
  いるみちのくの清々しい山川の情景が目前に広がるような思いが
  すると。中七下五の措辞に力があり、見事な挨拶句になっている。
  先生の食べ物の俳句だけを集めて、自注に加え料理と味の話を入れて
  頂くと大変楽しい「食の歳時記」ができると思う。ところで、
  掲句の鮎がとれたみちのくの川とは、雄物川であろうか。