天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

将兵の遺言

 靖国神社の斎庭門前左手には週なのか月替わりで、将兵の遺言が
書き出されている。今日は以下の掲載を見かけた。
    明治天皇御製(神祇歌)明治三十七年
 神がきに 朝まゐりして いのるかな 国と民との
 やすからむ世を


 生後三ヶ月の息子への遺訓       陸軍中佐・沼田正春
   (野砲兵第一連隊、昭和十九年十二月二日、レイテ島リモン
    西南方面にて戦死 神奈川県出身 三十一歳)
 大命に依り、父は沢山の将兵をお預かりして、更に更に難しい
戦場に赴く事となった。故に多忙中ではあるが一言申し述べて置く。
 若し父亡くしても、節夫には立派な祖父母があり優しい母がある。
お世話下さる叔父や叔母がある。又幾百年来の祖先がお前の事を
一生懸命見ていて下さるのだ。それ故、皆に有難く感謝しつつ
安心して征くのである。
 祖父母や母の教えに従い清く正しく如何なる事にも負けぬ
強さ優しさを持って育てよ。父は、お前が生育し身を修め、
家や家族を守り、立派に働く姿を夢みつつ発つのである。
 父の骨は遥か南の果てに埋まるとも、常に常に、お前が
生育する勇姿を見守っている。
 秋色濃き孫呉の平原に虫声も寂しく、北斗星は真上に輝き、
月は興安嶺の彼方に傾く。冷気強き灯火の下、遥かにお前の
姿が浮ぶ。どうか祖父母を大切に母を労わるよう。
他の事は祖父母様お母さんよりお聞きなさい。


帰りの車中で作った感想の歌五首:
   三歳の子に遺言を言ひ聞かす祖父母のこころ知るやすめろぎ
   神がきに朝まゐりするすめろぎの姿を知らず草莽の民
   英霊のこころやいかに六十年いくさなき世のありし敷島
   遺訓聞きしその子は我と同ひ年いかに生き來し六十年を
   わが孫に遺す言葉のとぼしけれ万葉集の歌誦せとこそ