天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

赤シャツ

 夏目漱石の『坊ちゃん』には、赤シャツとかマドンナとか面白い綽名の教師がでてくる。いつも赤い頭巾を被っている女の子がいると、本名の代わりに「赤頭巾ちゃん」という通り名、あだ名がつけられる。あるいは、逆に本名がわからない場合に、身に着けているものや身体の特徴で代表させて呼ぶこともある。芥川龍之介の『羅生門』では、「・・・・この男の外にも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありさうなものである。・・・・・」という場面がでてくる。
レトリックでは、ふたつのものごとの隣接性にもとづく比喩を換喩という。次の芭蕉の句における「かみこ」がそれである。
        ためつけて雪見にまかるかみこ哉
作者(芭蕉)は、なにかにつけ紙子を着ていたので、作者のことを「かみこ」で言い換えて俳味を出したのである。直接的には、紙子に折り目をつけて雪見に参る私であるなあ、という意味。
 立て続けに高度な話になったので、下五の切れ字「かな」まで一気に詠みくだす一物作りとか一句一章と呼ばれるわかり易い俳句をあげておく。
        あさがほに我は食(めし)くふおとこ哉
        玉祭りけふも焼場のけぶり哉
        石山の石にたばしるあられ哉
        むめがかにのつと日の出る山路かな
        猿引は猿の小袖をきぬた哉
 最後の句は、小袖を砧打ちして柔らかくしてやる、という意味。