現代の定家(4)
塚本自身の戀の歌について。いかに定家に傾倒したとはいえ、今更定家と同じような情況や心情を詠むわけがない。そこで彼が取り上げたのは、ホモセクシャルな愛、しかも男色、といっては言いすぎかもしれないが、男同士の愛であった。
湖水あふるるごとき音して隣室の青年が春夜髪あらひゐる
漕刑囚(ガレリアン)のはるけき裔か花持てるときも
その肩もりあがらせて
つひにバベルの塔、水中に淡黄の燈をともしー若き大工は
死せり
割礼の前夜、霧ふる無花果樹(いちじく)の杜(もり)で少年
同士ほほよせ
棒高跳の青年天(そら)につきささる一瞬のみづみづしき罰を
水球(ウォーター・ポロ)の青年栗色に潜(くぐ)れり
娶らざりしda Vinci
驟雨やまざるままに花街(くわがい)をもとほれる青年印度
孔雀のごとし
水にふる雪火のうへに散る百日紅(さるすべり)わがために死ぬは
眉濃き乳兄弟
馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人戀はば人あやむるこころ
今日のわが歌は、
大寒の社業繁栄祈願かな
軍歌聞くふくらすずめの六、七羽
献木は飛行聯隊笹子鳴く
献木のもくれんめぐむ睦月かな
あまた散るふくらすずめの影あはき
着膨れて一礼に去る鳥居かな
ひさかたの光あまねき一月は社業繁栄祈願参拝
つのぐめる木蓮の枝に牡丹江重砲兵聯隊の札