天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

現代の定家(10)

 塚本邦雄のアプローチは、まさに温故知新。古典の言葉を取り入れると共に、造語までに発展させる。例えば、塚本の歌に
  雲の上來(うへこ)しあたら長脛(ながすね)さやさやに杉の香(か)
  放(はな)つなれ好色男(すきをとこ)


があるが、「好色男(すきをとこ)」という言葉は次のように『梁塵秘抄』に出ている。
      住吉四所の御前には、顔よき女體ぞ坐(おは)します
      男は誰ぞと尋ぬれば、松が崎なる好色男(すきをとこ)


塚本の嗜好は次のように、・・・男、・・・童子、・・・少女 といった造語にまで展開する。

  そのめぐりたちまち蒼み敗戦のラガー身をもむ
  雉子哭男(きぎしをとこ) 
 
  往かず還らぬわが日常におとづれて春の若狭の
  麻疹童子(はしかどうじ)よ
 

  籠(こ)の雲雀するどきこゑにあらそふを見ずて駈け抜けたり
  麦(むぎ)少女(をとめ) 
 
  海彦は水葱少女(なぎをとめ)得て霜月のうらうらととほざかりし
  白帆 
    
  ラガー駈け去るその瞬間の風圧にひらとあやふし
  白(しら)芥子(けし)少女(をとめ) 
  
  あさもよし紀伊国少女(きのくにをとめ)金管のすさまじき
  「火の鳥」を聞き捨て 
 

  黄金週間一日(ひとひ)あませりうすぐらき四辻よぎる
  尺取少女(しやくとりをとめ) 
     
  蔓茘枝(つるれいし)鮮紅の実をわかちたる三日後あとを絶ち
  飛騨少女(ひだをとめ) 
    
  秋海棠そよげるあたりはなむけの言葉うるみて
  石見少女(いはみをとめ)は