天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

『楽園』(1)

 藤原龍一郎の八番目となる歌集『楽園』は、通勤電車の中で読んでいる。見開きの藤原のサインには、都市は楽園 と添え書きされているので、気持がわかる。都市生活者としての歌人のイメージが歌集によく現れている。なんとなく、江戸川乱歩萩原朔太郎の現代版のような感触なのだ。
 鑑賞のコードをいくつか挙げてみたい。


A 固有名詞(芸能人、小説家など人名、書名 など)


  来る波と帰る波とに足音はアナイス・ニンのように濡れるか
  エロスそして不発のテロルあらかじめルイ・マルのモノクロの
  鬼火や
  あの頃、ポール・ニザンを読みましたか?『アデン・アラビア』
  を読みましたか?


 *これだけ気軽に次々と外国人名が出てくると、日頃、外国文学や
  映画になじんでいない読者は、お手上げになるであろう。
  アナイス・ニンは、ヘンリー・ミラーとも関係を持った小説家で、
  特に膨大な量の『日記』は、情熱的な官能を描いた告白文学の白眉
  といわれる。
  ルイ・マルは映画監督。初の作品が「死刑台のエレベーター」。
  「鬼火」は、モーリス・ロネ主演で、自殺にいたる主人公の内面的
  な危機を丁寧に描いている。
  『アデン・アラビア』はポール・ニザンが書いた紀行文。
  「ぼくは二十才だった。人生でいちばん美しい年齢だなどと、
  誰にも言わせない」という書き出しが有名。


と、こんな調子で短歌鑑賞に当たっては、背景の知識を整理しておく必要がある。