天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

「短歌研究」新年号から(3)

 新年特集ということで、世の中に衝撃を与えた一首を、二十九名の歌人が挙げている。しかし、編集部の意図とそれぞれの歌人の把握・説明のしかたに、齟齬が生じているようだ。世の中に衝撃を与えた、というよりも大半が、歌人個人にあるいは、歌壇にという範囲に限定されている。石川啄木与謝野晶子、岸上大作の一首をあげている場合にはそれなりに理解できるが、「世の中に衝撃を与えた」という裏づけ説明がなされていないので、説得力に欠ける。そうした特集ではあるが、斎藤茂吉塚本邦雄は3人が世の中に衝撃を与えたとしている。石川啄木与謝野晶子、坪野哲久は2人がとりあげている。
斎藤茂吉塚本邦雄の歌をあげておこう。先ずは、斎藤茂吉


  しづかなる峠をのぼり来しときに月のひかりは八谷をてらす
  沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ
  鳥獣も然れ希臘の神々はいま死なむとする人を見捨つ
 

次に塚本邦雄
  五月祭の汗の青年 病むわれは火のごとき孤独もちてへだたる
  そら豆の束きづつきて夜の土間ににほふ 日本に死ぬる他なし
  医師は安楽死を語れども逆光の自転車屋の宙吊りの自転車