「短歌研究」新年号から(2)
作品連載第五回というシリーズの内の尾崎まゆみの場合を見てみよう。加藤治郎の場合に比べるとはるかに判りよい。古典への本家帰りといった趣がある。六百番歌合から藤原良経の次の歌のひとつひとつの文字を順番に頭に持つ(頭韻にして)三十首の歌を作っている。
月やそれほの見し人の面影をしのびかへせば有明の空
月の「つ」に対しては、
つつみこむ秋風の手の切れさうな有明の白い月の輪郭
人の「ひ」に対しては、
ひそやかに下弦の月は馬刀葉椎(まてばしひ)の湿りを
おびた樹皮にはりつく
有明(ありあけ)の下の「あ」に対しては、
明日へと流るる空にぽつかりとふくらむ赤い月のしたたり
有明(ありあけ)の「け」に対しては、
けざやかな月のひかりを一杯のアルカリイオン水にいざなふ
引いた歌は、みな月に関るもの。一首一首が良くできていて、魅力的である。一首の中に文語調と口語調を自然に混ぜている工夫もなされている。尾崎まゆみは、結社「玲瓏」所属であり、塚本邦雄に師事しただけあって、その薫陶が今回の作品に強く匂っている。